I はじめに

2025 年 4 月 15 日から 18 日にかけて、米国ワシントン D.C.において米国国際法学会(以下「ASIL」という。)の年次大会(以下「本年次大会」という。)が開催された。本年次大会は、いわゆる「トランプ 2.0」による相互関税交渉が進行中のタイミングと重なった。バイデン政権下で開催された 2024 年の年次大会では、WTO や経済連携協定・自由貿易協定(CPTPP 等)を含む国際経済法、ビジネスと人権をめぐる議論も活発に展開されたのに対し、本年次大会では、これらのテーマは相対的に後景に退き、投資家対国の紛争解決手続(Investor-State Dispute Settlement(ISDS))における仲裁(ISDS 仲裁、投資仲裁)を含め、環境及び気候変動とそれに関する人権(以下「気候変動等」という。)の議論が一層の注目を集めていた。

本稿では、本年次大会の特徴や議論を紹介の上、特に気候変動等の観点から、グローバルに事業を展開する企業に有益と思われる情報を提供する。

Ⅱ 欧米におけるサステナビリティ政策の動向と本年次大会の意義

トランプ大統領は 2025 年 1 月の就任初日から米国の環境・エネルギー政策を大きく転換し、「国際協定は米国に不当または不公平な負担をかけてはならない」としてパリ協定を離脱の上、途上国への気候変動対策資金の撤回、国内の環境規制の緩和や化石燃料を推進している 。また欧州においても、近年は政治主導のもとで、気候変動対策及び人権デュー・デリジェンスの推進が進められてきたが、欧州委員会が 2025 年 2 月にサステナビリティに関するオムニバス法案を公表し 、EU 企業の国際競争力を高めることを目的としてサステナビリティ関連規制の簡素化に向けた議論が始まった。人権デュー・デリジェンスについて定める企業サス

See Full Page